黒部幹線

(元:日本電力東京送電線)

(建設:日本電力 現在の管理:東電)

日本電力時代の貴重な参考文献

※こちらの架空送電線路は比較的後に完成しており、猪苗代線や上越線よりも少し若い。

黒部幹線の建設は、かつて実在していた日本電力が担ったようであるが、今は東電が管理している。
管轄経緯については、日本電力→日本発送電→関西電力の順であり、こうしたことから、黒部幹線はどちらかといえば関西電力の管轄エリアになろうかと思うが、黒部幹線については、大部分は関東地方を通過しているためか、今は東電が管理している。
建設時期については、日本電力株式會社十年史 昭和8年5月10日発行によれば、大正時代の終わり頃には既に険しい建設ルートの事前調査を行い、昭和初期に完成したとの記録がある。
起点については、建設当初の大元の昔については、富山県にある黒部川水系の柳河原発電所(現存せず?)であり、その北側に黒部開閉所を設けながら、大阪方面、東京方面へそれぞれ送電線を分岐させていた。
(その中で、その東京方面が今回紹介の黒部幹線となる。)
だが、その後は次々と、宇奈月発電所、黒部川第二発電所、黒部川第三発電所、黒部川第四発電所(1968年公開の映画にもなった黒部の太陽のくろよんである。)なども見事に落成し、現在の起点はその方面へ移されたようである。
送電ルートについては、現在はその各ある発電所より、黒部開閉所で東京方面へ分岐をした後は、まずは日本海側に沿って進み、アルプスの険しい場所を通過
その後は群馬県から埼玉県の奥秩父の山々も超え、最後は平地に入れば、途中、京北変電所への支線分岐(京北送電線)も行い、本線については川崎変電所までを結んでいたようである。
なお、黒部幹線はこうしたことから、主に東京方面への電力供給を目的として建設されていたため、大昔は日本電力東京送電線とも言われていたそうだ。
支持物の種類については、架空地線支持のとんがり帽子のない、日本電力特有の中相の腕金を大きく大胆に広げた旧型の普通の2回線四角鉄塔を用いたものの他に、山岳地帯では、1回線ずつに支持を振り分けた1回線式矩形鉄塔もある。
一方、長野県にある冠着山(姨捨山)付近には、2回線の同時併架が可能な矩形鉄塔も実在している。
なお、これについては、建設当初は2条の架空地線がないものが、日本電力株式會社10年史に載っているのが確認できた。
この文献では他に、秩父開閉所(今の新秩父開閉所とは違い、恐らく黒部幹線専用の開閉所と思わしき?)付近で撮影されたと思わる普通の旧鉄塔の写真もある。
そして、現状については、起点から奥秩父変電所までの区間については、今も当時の原型鉄塔が残りつつあるが
奥秩父変電所先の鉄塔については、奥秩父線に電線路名が変更され、大きく送電ルートを変更して鉄塔を275kV設計のものへと建て替えが行われた箇所もある。(この275kV建て替え区間は、日本電力東京送電線時代の元々の正規のルートでない)
なお、日本電力時代の原型鉄塔については、一応、近年後から落成した新飯能変電所の北側の山中まで続いているようである。(送電ルート変更の275kV建て替え区間の鉄塔については、この変電所の北側より出現し、中東京変電所まで結んでいるようだ。)
その先の青梅方面については、今は別路線による大型の送電線路に置き換えられており、原型鉄塔はしばらく見えないが、東京都多摩市桜ケ丘へ入ると、再び日本電力時代の原型鉄塔が出現する!
それが桜ケ丘線に相当する箇所であるが、こちらは現状については、その区間はなんらかの不足が生じた場合に非常時に使うことにしているのか、もしくは迂回路に使う電線路として指定されているのか
電気の通っていない送電線を唯残すのみで、死線状態となり、運用停止中のところもある。
特に桜ケ丘線については、家がやたらある箇所でも、普通に昭和初期の当時の送電塔のまま残っているのであるから、大分前から運用停止中なのかがうかがえた。
(ゴルフ場の側近を通る箇所なんかでは、木々がやたらと送電線に近づいている箇所があるから、運用停止中であるのはそこからもうかがえた。現状では到底、送電は難しいと思う。)
なお、それ以外にも以前は、埼玉県草加市内にある大きな京北変電所にも、本線からの支線分岐として、日本電力独特の旧鉄塔なる支持物が続いていたようであるが、今はやはり、そちらも大分前に建て替えられている。
それは恐らく、現在の京北線に相当する送電線であろう。
さてそれでは、特に昭和初期の送電塔が残ったエリアを写真と共に、重点的に紹介していこう!

濃霧に包まれる幻想的な矩形鉄塔区間の黒部幹線
矩形鉄塔で支持される送電線は、主に標高の高い山で採用されており、送電線の配列については、水平配列が目立つ。
主にこれは、雪が送電線へ降り積もって落雪したはずみで、送電線が跳ね上がってしまうストリートジャンプ防止のためのものであろう。
通常の縦型にして送電線を配列する手法では、ストリートジャンプ現象により、他の送電線と接触してショート事故を起こすので、標高の高いこのエリアでは、1回線ずつ振り分けた水平配列が目立つ。
なお、矩形鉄塔である区間は、573号鉄塔までのようである。
群馬県の上野村では、1回線ずつを振り分けた矩形鉄塔が目立つ。
その先については、一部は建て替えや改造箇所もあるが、かつての日本電力独特に構成された昭和2年式の鉄製の旧型の送電塔が目立つ。
ちなみだが、長野の方には、2回線の同時併架が可能となった別の種類の矩形鉄塔もある。

なお、こちらの1回線ずつ振り分けた送電塔の年式は、昭和2年(1927年)10月建設の模様

続いて奥の方では、1回線ずつ送電線を振り分けたものによるタイダウンも発見!
こちらは突如として、霧が晴れ始めて、レア構成(タイダウンは今時の送電塔では見かけない。)がそこにあることを送電塔自身が教えてくれたのであった。w

タイダウンというのは、谷底で送電線を支える箇所で適用される。
谷底で懸垂がいしで送電線を支持する場合は、上部へ向かう送電線に釣られて、懸垂がいし連が鉄塔の外へ広がったり持ち上がったりして動かないように、上部のみならず下からも懸垂がいしを使って送電線を固定するものを示す。
ちなみに近年では、耐張鉄塔の積極採用で、タイダウンは減少傾向にある。

こちらは左から、1回線ずつ矩形鉄塔で振り分けた耐張鉄塔と懸垂鉄塔による送電塔
左から黒部幹線 甲-570号、乙-570号の順

どんよりした曇り空の撮影はどこか悲しいから、ここはpicnicアプリを使用して青空化してみたが、どうだろうか?

小さな矩形鉄塔も昭和2年10月建設であるという証拠はここに!

そういえば、鉄塔の付近では、悲しいことに、無残にも打ち捨てられた懸垂がいしのかけらや残骸が結構目立つ。
今では大群のありの巣と化していた。
後述でも紹介するが、この懸垂がいしのかけらは確認してみると、いずれとも大阪陶業製(昔は大陶碍子とも言った。現在は日本ネットワークサポート社)であり、製造年は黒部幹線の建設時期と一致する1927年(昭和2年)製である。
なお、こうしたがいしも、今では博物館に展示されるものもあるぐらいだが、こうして無残にも放置されている運命にあるのもあるのは、なんだか悲しい。T_T
放置されている懸垂がいしの状態についてだが、いずれとも、懸垂がいしでは必要となる、クレビスキャップとコッタボルト、それから割ピンがなくなっており(それらのパーツはがいしを割って?ちゃんと産廃に出した感じなのか?)割れたものが目立つ。
何故打ち捨てられているのかは不明
なお、今の現場なら、ちゃんとそういうものは放置せず、しっかりと片づけて産廃に出すはずである。
(一応私はこれでも、東京電力管内の送電線工事現場の現場経験者でもあったのでわかる。6万6千ボルトの送電塔なら、仕事で頂上までの昇塔経験あり。)
昔はそういった規制が甘かったのかもしれない。
なお、いずれとも割れている状態なのは、故意に懸垂がいしの交換時に落として割られたものなのか(それだけでクレビスキャップが外れるか?土の上に落ちたとしても、そこまで割れるとは思えん。)
それか単純に、長期に渡る使用で、雷が懸垂がいしか送電線に落ちて、壊れたものを放置したのかが考えられたが
どうやらこれは、1940年代の太平洋戦争中の鉄類の不足で、懸垂がいし連から鉄の部分であるクレビスキャップ、コッタボルト、割りピンのみを回収して、他の懸垂がいしに流用したようなことも考えられた。
鉄類の物資が不足していた1940年代当時は、撤去した懸垂がいしの白い磁器部分を割って、鉄部分のみ流用で、新しく製造した懸垂がいしに流用したこともあった。
当時は、そういった意味合いで、鉄の部分のみ再利用した懸垂がいしもあったことから、白い磁器部分に、再生の再の文字がある懸垂がいしも製造されていたぐらいだ。
それにしては、落ちている数が多過ぎである!
ここまで割れた懸垂がいしが打ち捨てられた送電線は、他に例がない。w
まぁ、がいし好きには溜まらない場所ですがな^^

続いてこちらがその次の各甲乙の571号鉄塔

腕金の縦幅については、耐張鉄塔の方が幅広いようだ。

引き通しの腕金の縦幅は、ご覧の通り。

なお、送電塔の形については、十石峠以前の長野県側にも四角鉄塔はあるが、同峠から辿ってゆくと、矩形鉄塔は途中の574号鉄塔より、普通の四角鉄塔に戻っているようだ。
それ以降は、ずっと四角鉄塔が続く模様。

こちらは30基程進んだところの埼玉県秩父郡小鹿野町で撮影した、黒部幹線610号鉄塔
山の頂にあるため、ここは特に夏場は雷の直撃を受けやすそうにも思えた。
がいしのかけらは、90年近く立ち続けていることもあってか、そういった意味合いのものもあるのだろう。

こちらが次の611号鉄塔
ここは引き通しで、送電線を山の下へと引き下げている。
こちらはまた完全なる原型鉄塔に思える。

今撮影した3基を遠くから撮るとこのような感じである。

こちらの耐張鉄塔は、612号鉄塔

続いてこちらが613号鉄塔
ここで改めて説明を!
これぞかつて実在の日本電力独特の構成をした鉄塔である!
送電々圧が同じである甲信幹線や上越幹線などとは、形状が全く違うのが見て取れる!
なお、ここでは国道299号から手が届きそうなぐらい近くに建っていた。その他に送電線が草木とも接触しそうで怖い。
(はて、154kVの接近限界距離は何メータ―だっけか?)
そんな中、数多くのツーリングライダーが国道299号を駆け上がる。
(歴史ある送電塔なのに、誰一人、見向きはしない。w)

この区間の建設時期も変わらず、昭和2年(1927年)10月とあった。
なお、現状については、がいしを取り替えたりブロッキングコイルを取り付けたりするだけで、鉄塔本体は塗装が剥がれている。
このままだと建て替えの危険性がある。
撮影はお早めに!

これがさらにその次の614号鉄塔

ここもまた山を切り開いた中腹辺りに建っていた。

そしてここからは、さらに30基程老番へ進んだ場所で撮影したものを掲載
こちらは左手前が黒部幹線640号でその次が639号鉄塔

639号鉄塔は引き通しのもので、完全なる原型鉄塔と言えよう。

耐張鉄塔はどうだろうか、これは架空地線支持の三角帽子を嵩上げするなどされているのだろうか?

次いで老番方面を見る。

この先の送電塔は、耐張鉄塔が続いていた。
それから他には、除却を待つ安曇幹線297号?鉄塔の烏帽子型鉄塔もあった。
安曇幹線の方は、強固な基礎を剥がすのに時間がかかるのであろう。

<おまけ>

黒部幹線の懸垂がいしのかけら

こちらは黒部幹線の送電塔付近で見つけた黒部幹線の懸垂がいしのかけらである。(写真左側のもの)
右側は参考用に置いた元の形である。(こちらの製造年は2017年(平成29年)製)今のがいしは色が違い、薄水色系をしている。)
なお、サイズについては、架空送電線路の支持用でよく使われる普通の254oのものかと思われる。

なお、かけらの方は破損が激しく、原型をとどめていない。
クレビスキャップとコッタボルト、割りピンが周囲にないか探してみたが、見つからなかった。
これは恐らく雷撃による火花放電(フラッシオーバー)で大きく破損したものであろう。
(↑こうしたことから、クレビスキャップとピンについては、搭上に残り続けた可能性が高い。磁器だけが大きく割れて、下へ落ちたのだろう。)
人の故意による破壊では、ここまでの大げさな破壊はできない。
この地域は東電で公開されている雷レーダーを見ると、夏場は夕立が多い。当然長い間、雷雨にさらされれば、がいしに雷が落ちることもあるであろう。

と思っていたが、どうやらこれは、1940年代の戦時中、鉄類の不足で、懸垂がいしの磁器部分を壊して、鉄部分のみ回収して、新しく製造された次の懸垂がいしに流用されたようなことも考えられた。
このかけらは、それからずっと放置され、忘れ去られたのであろう。使いものにならないぐらいにまで壊れており、環境にも悪いと思ったので、記念に持ち帰った。w

なお、がいしの製造年は1927年(昭和2年)5月を示していた。これは正に!黒部幹線の建設当初の昭和2年に使われていたものであろう。
発見時は思わず声が出てしまった。w
そして、製造メーカーについては、やはり、主に関西を管轄していた日本電力らしい感じで、大阪陶業株式會社(現:日本ネットワークサポート社)製であった。
ちなみに、当時の大阪陶業株式會社による特別高圧がいしの広告が丁度、「管内電気事業要覧 第6回 東京通信局編 昭和4年7月18日発行」に80万ボルトの試験室の写真と共に載っているので、是非ご覧あれ!!
それにしても、完全に原型をとどめていたとすれば、値打ちはそれなりにあったことだろうなw↓
ちなみに、文化遺産オンラインというサイトでは、日本ガイシさんの1928年製造の懸垂がいしが東工大(東京工業大学博物館)所蔵のものとして掲載されている。

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